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私たちは今、「IT監視社会」vs.「IT市民社会」の分岐点に立っています

1月11日の台湾総統選で、中国に対抗する蔡英文氏が圧倒的な勝利を飾りました。香港デモへの高圧的な対応が反発を招いたわけですが、だからといって中国が態度を軟化することはないでしょう。あらゆる手段を使って、香港、台湾への圧力を強めてくるに違いありません。
そもそも中国は、一帯一路・軍拡・5G基地局シェア拡大・デジタル人民元によるドル駆逐計画等々が示すように、全世界の覇権まで握ろうとしているのです。
私たちは今、徹底した「IT監視社会」化を進める中国の実態を直視し、どうすれば、その対極にある「IT市民社会」を実現できるか、真剣に考える必要があるのではないでしょうか?
4億台のAI監視カメラで人民を監視し、犯罪者をたちどころに逮捕する「天網」。「支付宝(アリペイ)」「芝麻信用(セサミ・クレジット)」といったスマホ決済サービスと信用スコアのセットによって、人民の取引履歴はもちろん、学歴、家族姻戚関係、所属、人脈、SNSでの言動に至るまで徹底的に管理コントロールする。歴史は政府に都合のいいように改竄し、反抗する者は一網打尽に拘束・洗脳する。ジョージ・オーウェルの小説『1984』や押井守監督『攻殻機動隊』が描いた未来のディストピアが、フィクションではなく、現実であることを示したのが、中国習近平体制なわけです。


問題の本質は、中国共産党一党独裁政権が、ピラミッド型社会の頂点に立ち、中国人民・香港市民・台湾市民はもとより、全世界の市民まで徹底的に支配しようとしている。そして、その強力な武器としてITが使われ、このまま彼らが覇権を強めてゆこうとすれば、行き着く先は、全世界の「IT監視社会」化以外あり得ないというところにあります。

では、どうすればいいか?
実は、ピラミッド型社会の歴史は古く、有史以来、人類はピラミッド型社会の創造と破壊を繰り返してきました。
国家、官僚、軍隊、企業、学校。いずれもピラミッド型社会として形成されてきたのは、「コミュニケーション効率の最大化」という法則に基づいているからです。たとえば、強い軍隊は、大将の命令一下、一兵卒に至るまで、一体となって勝利に向けて最大限のパフォーマンスを発揮できなければなりません。まさに「ワンチーム」です。
とはいえ、ピラミッド型社会は、えてして命令を一方的に強制する非人間的な社会になりがちです。無能なリーダー、無能な管理職が上層部に巣食うことによって、崩壊していった事例は枚挙にいとまありません。

500年前のIT革命、グーテンベルクの印刷革命は、情報の大量複製・価格破壊によって「知の大衆化」をもたらし、それが宗教改革、産業革命、市民革命を通じて、英米仏を代表とする国民主権、民主主義を掲げる「国民国家」成立の原動力となりました。
しかし、実は、民主主義「国民国家」は、資本主義、植民地主義、帝国主義と表裏一体となっていて、世界中を資本主義メカニズムに組み込む泥沼の争いに巻き込みました。
そして、それが、第一次世界大戦、第二次世界大戦をはじめとする今日までの世界的な紛争、殺戮、対立、憎悪、さらには、地球環境破壊の根本原因ともなっているのです。

こうした中、インターネットという水平分散ネットワーク型のコミュニケーション・インフラが登場し、それが普及するにつれ、国家、官僚、軍隊、企業、学校といったピラミッド型組織がぐらつきはじめました。
ピラミッド型コミュニケーション・インフラの役割を果たしていたマスメディアが縮小・崩壊しつつあるのも当然です。
私たちは今、スマートフォンという名のスーパーコンピュータを持ち歩き、いつでもどこでもネットにアクセスして、世界中から、情報を取得したり、買い物をしたり、旅をしたり、宿泊したり、会話をしたり、動画を見たり、ゲームで遊んだりすることができるのです。
古臭いピラミッド型の組織、ピラミッド型のコミュニケーション・インフラは、もはや「コミュニケーション効率の最大化」をもたらすものではなく、むしろ、その阻害要因となってしまっているわけです。
では、なぜ、今、私たちは「IT監視社会」vs.「IT市民社会」の分岐点に立っているのでしょうか?
それは、もし、一般市民が自ら考え、行動しない限り、「IT市民社会」はやってこないからです。
自ら考えない、行動もしない、誰かが与えてくれるのを待っているというのであれば、やってくるのは「IT監視社会」のほうです。

とはいえ、現状のインターネットには、プラットフォーマーや政府や投資家といったパワー・プレイヤー(権力者)たちに比べ、市民の力が圧倒的に弱いという課題があります。
ジョン・レノンの「Power to the People」になぞらえていえば、「IT Power to the People」が求められているのです。
具体的にどういう課題があるのか、それを明らかにしたのが、「IT革命の父」ダグラス・エンゲルバートでした。
エンゲルバートは、冷戦が深刻化する中、1968年12月9日に「A research center for augmenting human intellect(人間の知性を高める研究の核心)」というテーマを掲げ、NLS(oN-Line System/オンラインシステム)というオンライン・マルチユーザー・コラボレーション・システムをデモしたのです。
つまり、IT革命が解決すべき課題は、
①人々の知性を高めることができるか?
②人々の協働を促進することができるか?
③人類が直面する深刻な問題を解決できるか?
の3つなわけです。
後に「The Mother of All Demos(すべてのデモの母)/The Big Demo(ビッグデモ)」と呼ばれるようになったこのデモンストレーションで、エンゲルバートは、世界で初めてマウスでコンピュータを操作し、専門知識のない一般人でもコンピュータを操作できることを示しました。
そして、それがアラン・ケイの「暫定的ダイナブック」の開発に繋がり、アップルのMacintoshやiPhone、iPad、マイクロソフトのWindows 95へと発展していくことによって、パーソナルコンピュータ革命を実現していったことは周知のとおりです。
しかし、エンゲルバートが提示したIT革命が解決すべき3つの課題は、未だ解決されず、むしろ、深刻な方向に進んでいってしまっています。
現状のインターネットは、フェイクやヘイトの横行に見られるように、人々の知性を高めるどころか低めています。人々の協働を促進し、深刻な問題の解決をするどころか、人々の対立を煽り、地球温暖化や環境破壊の問題など、待ったなしの問題は深刻さを増すばかりです。
昨年の12月9日、ダグラス・エンゲルバートのThe Demo 51周年を記念して開催した「ITday Japan 2019〜IT監視社会か? IT市民社会か? それが問題だ〜」では、私たちが直面している「IT監視社会」か「IT市民社会」か、という深刻な問題を解決するために、3つの提案をしました。
1つめは、「システム思考/CAS理論」です。自然界の一部である「人間社会」のような複雑な事象は、AIを活用して「システム思考」で分析し、問題解決する必要があります。そこで、その一つの方法論として、「人間社会」をコミュニケーション(情流・人流・物流・金流)をアンプリファイ(増幅する)システムとして捉え、同期に着目することで、「経済活性化と持続可能性が両立する未来社会」のシステム設計を目指すCAS(コミュニケーション・アンプリファイア・システム)理論を紹介しました。
2つめは、「WWWを再発明する」です。現在の世界的な混迷の背景には、ITの未熟さ、とりわけWWWの未熟さがあります。断片的な情報しか扱えず、フェイクやヘイトの温床となっている現行のチラシ型WWWに代わって、人々の知識活動を支援するブック型WWWを開発することを提案しました。
3つめは、「パーソナルインターネット革命」です。1984年、世界初の商用パーソナルコンピュータMacintoshはCM「1984」とともに登場し、「The Computer for the Rest of Us(専門家ではない一般の人々のためのコンピュータ)」を実現しました。2019年、「ITday Japan 2019」は、「The Internet for the Rest of Us(専門家ではない一般の人々のためのインターネット)」を実現する開発プロジェクトを立ち上げ、一般市民による「IT市民社会」の創造を目指すという宣言をしました。

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