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WWWを再発明する

②WWWを再発明する

そこで、ここからは「WWWを再発明する」とはどういうことか、ということについて話をします。

きっかけは、昨年、インターネット商用化25周年・ダグラス・エンゲルバート The Demo 50周年記念「IT25・50」シンポジウムで、アラン・ケイに基調講演を依頼した際に、「エンゲルバートのThe Demoの25年後に登場したMosaicは、たいしたものじゃない。どちらかと言えば、ひどいものだ。Mosaic Peopleは、エンゲルバートのことも、HyperCardのことも、WWWを開発したNeXTのこともちゃんと勉強してないし、勉強しようともしていない」という返事をもらったことでした。アラン・ケイは、WWWを発明したティム・バーナーズ=リーとネット上で論争までしていて、「ウェブはアマチュアによるものだった」とまで言い切っていました。私は、HyperCardやNeXTはもちろん、GENERAL MAGICのことを知っているので、アラン・ケイが言わんとしていることがよくわかりました。現在のWWWよりもはるかに進んでいて、使っていて楽しく、かつ、役に立つ「もうひとつのハイパーメディア」の系譜があったのです。しかし、現実に普及したのはWWWのほうでした。この点についてティム・バーナーズ=リーは「WWWが普及したのは、シンプルで、フリーで、オープンだったからだ」と言っていて、それはそれで正しいと思います。しかし、WWWは、1993年にマーク・アンドリーセンが、テキストとグラフィックスを同時に表示できるWebブラウザ、Mosaicを発明するまで、ほとんどといっていいほど普及していませんでした。ティム・バーナーズ=リーは、WWWをNeXT上で開発し、「もし、NeXTという環境がなければ、自分がWWWを開発するのに、あと数年はかかったであろう」とまで言っているのですから、NeXTでは標準となっていた、テキストとグラフィックスを同時に表示するブラウザを何故開発しなかったのか疑問が残ります。今年は、1989年にティム・バーナーズ=リーがWWWを発明してから30周年にあたるのですが、いつまでも現状のWWWのままでいいのか、そろそろ考えてもいい時期なのではないかと思っています。

「もうひとつのハイパーメディア」の代表は、1987に発表されたHyperCardです。HyperCardは、Macintoshに標準で搭載されていて、プログラミング知識がなくても、誰でも簡単に自分なりのソフトウェア(スタックウェアと呼んでいました)を作成することができました。そして、プログラミング知識があれば、作り込んだスタックェアも作成することができました。私は、1988年に「MacSchool」というMacの入門書をハイパーメディア化した製品を開発し、販売しました。これは、日本のみならず世界的にみても初めてのe-learningソフトウェアであり、最も商業的に成功したスタックウェアでした。

「もうひとつのハイパーメディア」の流れは、「マルチメディア」というCD-ROMベースの表現力豊かなハイパーメディア・コンテンツ流通へとつながりました。私は、2000年に「カレッジ館Office 2000」というMicrosoft Office 2000(Word 2000、Excel 2000、PowerPoint 2000、Outlook 2000)のe-learningソフトウェアを企画プロデュースしています。この時、一緒に開発したのは学生時代の川島優志さんでした。川島さんは、その後、「カレッジ館Office 2000」をベースにMSN公式サイトにおけるMS Officeチュートリアル・コンテンツを開発し、渡米してGoogleに入社。日本人初のWebマスターとして活躍しました。そして現在は、Niantic Inc.で「Ingress」「ポケモンGO」「ハリーポッター魔法同盟」などの開発に関わっています。

現状のWWWには大きな問題点があります。要するに、現状のWWWは、膨大なアドレス&リンク付きファイルの集合体にすぎないのです。例えて言うなら、断片的な情報しか扱えないチラシの山であり、しかも、そのほとんどがゴミなのです。だからこそ、Googleが儲かるとも言えるわけですが、探し出したい情報を探すためには、適切なキーワードを入力するテクニックや、膨大な検索結果から再び絞り込んでいくテクニックが必要で、一般ユーザーにとっては非常い負荷が大きい。ちょっとした情報検索だけであればいいのですが、人々の知識活動には全く向かない。基本設計からして、「人間の知性を高める」というエンゲルバート掲げたインターネットの理想の姿からは程遠い存在なのです。

では、次世代WWWの基本仕様というのは、どのようなものでしょうか? 次世代WWWは、価値ある知識を扱えるブック型WWWになっているべきでしょう。ユーザーにとって使いやすく、わくわく楽しく有益な存在でなければなりません。そして、現状のWWWブラウザは閲覧するのが中心となっていますが、知識活動を支援する存在となるためには、「本」と「ノート」と「会話」機能が標準装備されていなければなりません。そして、現状のWWWは、専門家やGAFA、アドネットワーク業者、投資家、そして政府といった強者にとって有利なものになっていて、個人のものになっていません。そこで、次世代WWWは、パーソナルコンピュータが個人にコンピュータを解放したように、個人にインターネットを解放する仕様のものでなければなりません。

では、具体的にブック型WWWというのは、どのようなものなのでしょうか? 実は、そのヒントは、500年前のIT革命であるグーテンベルク印刷革命にあります。1455年に制作された『グーテンベルク聖書』には、「表紙」も「目次」も「脚注」も「索引」も、そして「奥付」もありませんでした。当時、そもそも「本」というものは、筆写僧が手書きで一冊一冊書き写すものだったため、大変貴重で、高価なものだったわけです。このため「本」を所有できるのは王侯貴族や身分の高い僧侶だけに限られていて、彼らはおかかえ装丁師を雇っていて、自分の立派な書斎に合うように装丁させていたのです。したがって、印刷所は印刷をするだけで、印刷紙の束、つまりチラシのようなものを納品していたのです。このように「本」が、今日のような「本」の体裁を整える前の時代、これを「インキュナブラ(揺籃期)」というのですが、そうした時代が約50年間続きました。

グーテンベルク印刷革命から50年後、1500年ごろに、もうひとりの立役者が登場します。「商業印刷の父」といわれるアルドゥス・マヌティウス(Aldus Manutius)です。アルドゥス(Aldus)の名は、MacintoshでDTP(デスクトップ・パブリッシング)市場を切り開いた「アルダス・ページメーカー(Aldus PageMaker)」というDTPソフト会社の社名に使われたので、DTPの歴史を知っている人にとっては、馴染み深いものです。アルドゥス・マヌティウスは、八つ折り本、イタリック体、ページネーション、著作権表示といった、今日の「本」の原型を発明しました。私たちは、「本」といえば、「表紙(背表紙を含む)」「目次」「本文」「脚注」「索引」「奥付」といった基本的な構成要素を備えているのが当たり前と思っていますが、たとえば「和書」には、「背表紙」も「目次」も「脚注」「索引」「奥付」もありませんでした。アルドゥス・マヌティウスが発明したとされるページネーションは、「本文」の各ページに連続するページ番号を付け、「目次」に「見出し」を並べることで、「目次」と「本文」の間でランダムアクセスを可能にするためのものです。本棚に並べられたたくさんの本の中から一冊を選べるのは、「表紙」や「背表紙」があるからです。「脚注」は、ハイパーテキストリンクです。「索引」は、キーワード検索。「奥付」には、その本のタイトルや著者名、発行者名、印刷所名、発行年月日、書籍コードなど、その「本」のアイデンティティが記録され、それがあることによって、書店や図書館で、その「本」を探し出せるようになっているわけです。つまり、「本」の構成要素というのは、すべてランダムアクセスを実現するための情報技術なのであり、情報技術の観点から見ると、「本」というのは、「ランダムアクセス性の高い情報ユニット(オブジェクト)」だということができます。そして、「図書館」は、「ランダムアクセスの高い知識ベース(知識クラウド)」だと考えられます。今のWWWは、「本」の歴史になぞらえるなら、まだ体裁が整っていない「インキュナブラ(揺籃期)」の時代、チラシのような状態で流通していた時代で、今日の「本」のように、きちんと情報が体系的に整理され、知識活動に役立つWWWが登場するのはこれからだ、ということが考えられるのです。

では、きちんと情報が体系的に整理され、知識活動に役立つブック型WWWとは、一体どういうものなのでしょうか? 実は、私は20年前に、Kacis(Knowledge Circulation System with AI/人工知能を活用した知識の循環システム)という名称のクライアント・サーバー・システムを開発したことがありました。クライアントソフトのKacis Publisher/ Kacis Writerは、「表紙」「目次」「本文」「脚注」「索引」「奥付」といった「本」の構成要素を備えた文書作成ソフトで、たとえば、『現代用語の基礎知識』や『聖書』『シェークスピア全集』『動物図鑑』『植物図鑑』といった膨大なドキュメントを1ファイルで作成することができ、Kacis Publisherのほうは、著作権保護をかけて、そのまますぐに出版したり、XMLファイルとして書き出すことができるようになっていました。ワードプロセッサでは、こうした文書作成をすることができません。それは、ワードプロセッサが、基本的に「巻物(スクロール)」の構造をしているからです。「巻物」の欠点は、膨大なドキュメントの場合、任意の情報にたどり着くために、行ったり来たりを繰り返さなければならず、ランダムアクセス性が乏しいからです。Kacisは、アウトラインプロセッサとワードプロセッサをドッキングさせた2つのウインドウから構成され、アウトラインプロセッサ側のウインドウで全体的な構成案、つまり「目次」を作成し、ワードプロセッサ側のウインドウには、「目次」に対応する「本文」に相当するカードが連続して並んでいて、「目次」をクリックすると、それに対応する「本文」がすぐに頭出しされるようになっていました。そして、「目次」を入れ替えると対応する「本文」カードがすぐに入れ替わるようになっていて、膨大な情報を整理しながら一冊の本にまとめることができるようになっていました。論文のような「構造化文書」作成に適したドキュメントプロセッサであり、知識活動の効率を大幅に向上するナレッジプロセッサだったのです。サーバソフトのKacis Cabinetは、「図書館」のメタファで、Kacis Publisher/ Kacis Writerで作成したドキュメントを効率的に格納し、ランダムアクセスできるようになっていました。Kacis Publisher/ Kacis Writerは、「ソフトウェア・プロダクト・オブ・ジ・イヤー2001」(SOFTIC)を受賞し、米国でもベンチャーの登竜門、IDGのDEMO会員向けDEMO Letterで絶賛されるなど、将来性を期待されていたのですが、残念ながら、パートナーの開発会社の親会社の事情(商社不況)のあおりを受けて、開発中止を余儀なくされました。

Kacisは開発中止になってしまったわけですが、実はKacisによく似たConfluenceという構造化文書作成ソフト&コラボレーションツールが、今や企業内Wikiの世界標準になっています。Wikipediaによれば、クライアントには、アドビやサンマイクロ、IBM、ジョン・ホプキンズ大学、国際連合など錚々たる企業や組織が名を連ね、公式サイトによれば、現在、世界で35,000社がクライアントになっています。

KacisやConfluenceのような構造化文書が、ワードプロセッサのような巻物文書より何が優れているかといえば、それは、ランダムアクセス性が格段に高いというところにあります。アドビが社内WikiにConfluenceを採用していることが証明しているように、ワードプロセッサはもちろん、PDFよりも企業内文書管理に優れているのが構造化文書なのです。そして、現状のWWWにおける「シェークスピア全集」のページや、Wikipediaの「シェークスピア」のページと、Kacisの「シェークスピア全集」を比較すれば明らかなように、基本的に「巻物」の構造をしたWebページやWikipediaでは、「目次」と「本文」の間を行ったり来たりするのに、膨大な手間と時間がかかり、全体の中で、いまどの位置の文書を読んでいるのかすらわからなくなってしまいます。これに対して、Kacisの場合は、「目次」が「本文」から独立して、常に表示されているので、ランダムアクセスが可能な上、常に全体の中で、どの位置の文書を読んでいるのかがわかる形で文書を読み進めることができます。さらに、Kacisの場合、「本」と「ノート」の間で、著者が任意に設定した著作権保護が許諾する範囲で、テキストやグラフィックス、ムービー、3Dグラフィックスの引用が可能となっていて、自動的に出典を明記するようになっていました。

では、具体的に次世代WWW開発は、どのように進めたらいいでしょうか? 全体的な設計のし直しということになると、膨大な時間と労力がかかります。そこで、まずはできるところから取り掛かるのがいいと考えています。そのひとつは、ブラウザにブック型WWWの機能を少しずつ付加していくというやり方です。たとえば、構造化文書機能を付加するにはどうしたらいいか、プロトタイプを作成してみました。そうしてみたところ、FirefoxとSafariは、ブックマークをメインウインドウの左側に表示するようになっているので、このブックマークを利用して擬似的に「目次」を作成することができました。Google Chromeの場合は、ブックマークを別ウィンドウに表示する仕様になっているので、プロトタイプを作成することができませんでした。あくまで、このプロトタイプは擬似的なものです。実際には、各ブラウザ開発会社に働きかけて、「目次」ウインドウを開発してもらい、この「目次」に対応するWebページの仕様を標準策定していくいうのが現実的だと思います。このようにチラシ型WWWの中にブック型WWWが並存する状態を実現すれば、徐々にブック側WWWに対応するサイトが増えていくと考えられます。たとえば、長文のニュースとか教科書的に活用したい文書の場合は、ブック型WWWに対応したほうが、はるかに利便性が高まります。その他、Kindleなど電子書籍アプリ開発会社に働きかけて、ブラウザに対応するブラグインを開発し、かつ、ノート機能を格段に拡充していってもらうというやり方も考えられます。現状のようにWebブラウザと電子書籍が別々に存在している状態のほうが不自然です。いずれ、両者はドッキングするでしょう。そして、読者が電子書籍の要点をノートにメモしながら、Webを自由に散策し、関連情報をクリッピングしながら、自分なりのノートを作成していけるようになると考えられます。まさにそれこそが知識活動であり、そうなってはじめて、人間の知性向上に役立つWWWの時代がやってくることになるでしょう。

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